2013.12.01 Sunday

「こわいはなし」



時間はおなじ速度ではすすまないから
おそろしくはやい朝も
おそろしくながい夜もある

孵化する前の卵を燃した
異臭のなか
夏のひかり
もどれないほど
わたしたちに目的はなく
老いたらちいさくなっていく

あたらしい
わたしはきれいか
あなたはきれいだ
おなじ速度ではすすまないから
翌朝も冷蔵庫のなかはつめたい





(電子詩集『夜の分布図』より 2013年マイナビ)

2013.02.21 Thursday

「フレットレス」



夏の庭で
植物がたのしそうにはしているが
それは形容にすぎない

へだたりなく
ことばをあやつれたとしても
君をおこらせてしまうときもある

夏の庭で
やわらかくひざしに
やかれて

きょうはあついですね、なんて
植物に水をやる

へだたりなく
ことばをあやつれるはずなのに
おこってしまった君が
ねむったふりをする

水がかわかぬうちに
朝食の支度をして
ふっとうするまでの流れで

またあたらしいことばをかんがえている
詩ではないことばをかんがえている







(第4詩集『はこいり』より 2010年思潮社)

2013.02.21 Thursday

「fix point」


 
don't you close more?
it does not get dry.
don't you close more?
you can lose it,
and you can start it.

don't you close more?
you still feeling sad,
and go to the end,
and you close more.
and you can’t start it.
continues shaking.

this awe.
this latitude and longitude.
this maintains.





26 Jan, 2013
For Kazuhiro Ishigami exhibition / Botanicow
(Translation by Mizuki Misumi)
2013.02.21 Thursday

「定点」

 
もっと閉じないか
乾かぬよう
もっと閉じはしないか
それから
あたらしくはじまってしまうか

閉じないか
かなしんだまま
おしまいまで
閉じないか
はじまらぬよう
揺るがして

その畏怖へ
緯度と軽度と
保ったまま






(2013.1.26 石上和弘彫刻展/ボタニカウに寄せて、2)
2009.08.25 Tuesday

「終焉#2」




わたしを
定義しろ

武装したまま短冊を書く
うつくしい夕方から
うつくしい夜明けにかけて
うつくしいひとの喉をまさぐる
武装したままである
ガスマスクごしにみる世界である
うつくしい裂け目である

ねがいごとが追ってくる
「おかあさんにあいたいです」
「おとうさんがなきませんように」
「うまく、こわれますように」
いっせいにはしりだす際に
わらいながら書くわたしが
「順風満帆」

すべてがいつかは
うまく、こわれますように
ふるえるゆびさきが柔らかく書いた

わたしを定義してください





初出:2009.8.22 朝日新聞
2009.06.13 Saturday

「幸福論」


わたしをみている得体のしれない歪な模様は、あれはなに、無口の部屋と寝息はいつだって寒々しい色を主張しています

わたしだっておさないころ
ことばを紡ぐこともせず
必死で
温度を求めて
それは
羊水から脱出した後悔にも
ひとしく

いまだに必死ではありますが
あいしてるあいしていないなどとののしっては
冷蔵庫に住む
みすぼらしいおんな

憐れむことだけを生業にしてきました
白々しいいたみがすきでした
すべての憂鬱はわたしから生じわたしへ消え
わたしはどこかで
期待していたのでしょう

わたしをみている得体のしれない歪な模様は、おそらく「しあわせ」とかいうもので、いつしか身を委ねる恐怖にとりつかれてアイスクリームばかりを食べています

夫のことだけを感動の対象にして
それいがいを排除してしまい
盲目故、ことばを実感し
なにが楽しくて紡いでいるのか、
問うことさえやめにして
ただ、
あたたかい腕はなにより大切なのだろうとおもう

二歳にもならない娘が
あらゆるものを可愛いと述べ
その理解に足らない表情で
放置されていたシリカゲルを
「可愛い」
と、にぎりしめていた
あの、
えがおにとどかない、

たとえばそれを(こうふく)とよぶのであれば
呟いて

そうやって今日も
夫にいだかれながら
捨てあぐねた
乾燥剤のことだけを考えている





既出:2008年5月31日発行「錯覚しなければ」
2009.06.13 Saturday

「お早う人類」


(お はよ   う じんるい )

少女のてのひら
にはたくさんの
絶望が刻みつけられて
いて
おもいのほか
あたたかな熱を持ってはいるのだが

少女の収集癖がゆるせないのであった

「わたしはうまれたときからおかあさんをあつめています」

         「…痛いのがこぼれちゃった」

概して少女というものは
まだ野生をかくしている
もので
その
相容れないあな

経血を
ながしこむ(おはよう)

トローチ、すき?
トローチ、重要じゃない
トローチ、すきなんだ
トローチ、要る?
トローチ、いらないや

トローチ、いらないや
じゃあトローチ要らないあなたこそが要りません

ざんこくすぎてたいくつした
少女たちのあくびが
あつまっては
いつかひろがる海になり
後悔するためだけに
彼女たちは扉をひらくのだった



おはようじんるい
きょうはわたしのたんじょうび




既出:2008年5月11日発行「少女症」(完売)
2009.05.18 Monday

「With Me as the Base」

With Me as the Base 私を底辺として


With Me as the Base.
Woman upon woman passes me by.
Once in a while,one will pause.
My outlines warp,
I decay.
The sky is clear.
A blue sky like I've never seen.
Tears evaporate,
become clouds,
become acid rain that dissolves us.
From beginning to end
consistently
I decay.
I liquefy
putrefy
become your compost.
With me as the base,
you grow.
I reach tentatively toward the sun.
My arm disintegrates.




translated by Juliet Winters Capenter
2009.03.28 Saturday

「靨」


産みたいの
膿むなんて嘘だ
産みたいの

それだったらいっそ木製の温度。

うまれたばかりのあかごすら
いずれはしにそしてきえゆき
またはじまるこのあさにすら
いずれはうまれてしまいしぬ

あらかじめ縫いつけられた後悔を知る、日に。

おめでとう

「この子はだいぶ木目がはっきりしているね」
「血液のささいな失敗よ」

太古にうまれ
いま、しんで
一昨日の子が
昨日しんだと
しても、同じ
濃度を泳いで

「よく似てるわねえ」
「血液が収斂」

産まれた瞬間にわたしたち
過去形、
2009.03.28 Saturday

「切愛」



階段をかけあがって
きれた息が
夕焼け、
あたらしい町に飲み込まれる
真夏日に
あしの折れた炬燵を捨てるかどうか
思案しながら
四畳半でこんこんとねむる
鬼に問う

夕飯は食べてから帰るのか
お前のすきな煮物の材料を買ってきたから

鬼の頬を撫でる風が夕焼けで
恋人のようだとおもう
この鬼は恋人のようだとおもう


おおむかしにかなしいゆめをみて
ないていたわたしを
つれてにげた
おに
いとしいおに
えがおがすえおそろしくて
きちんとあいじょうをふりわける
そんなおに


くつくつと沸騰してゆく台所を
夕焼けがなぞり
不躾にしのびこんだ風が
夜にむかい
階段をくだる町をも撫でて
きれた息を思い出し
野菜を洗うわたしの
あしが折れて
恋人は鬼のようにねむりつづける






2008.8.2
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