2017.04.10 Monday

「カラン」

 

糸を紡ぐあなたの 指に触れたちいさな朝

わらう わらう しわくちゃに わらいながら 音をたてる

 

町の灯り消えながら カタカタカタカタってしめくくる

おはよう つぎはあなたの 右の肩にひかりが降る

 

てをのばしておいでよ いのりみたいにさ

くちびるからこぼれて ことばになれ

 

めざめたとき産まれた 当たり前のおはなしです

これからここで起こることは ひとつひとつ夢のようです

 

 

糸を紡ぐあなたの 指に触れたちいさな朝

わらう わらう しわくちゃに わらいながら 音をたてる

 

てをのばしておいでよ はじめてみたいにさ

くちびるからこぼれて ことばがある

 

めざめたとき産まれた 当たり前のおはなしです

これからここで起こることは ひとつひとつ夢のようです

 

 

紡がれた糸の先に 連なっていく名前と

わらう わらう しわくちゃに わらいながらことばになる

 

めざめたとき産まれた 当たり前のおはなしです

これからここで起こることは ひとつひとつ夢のようです

 

 

(2011年9月発売 三角みづ紀ユニットセカンドアルバム『幻滅した』(Pelmage Records)収録作品)

 

 

 

2017.04.10 Monday

「綻びる」

 

見えない雨が降る日に

わたしだけの傘を持ち

散歩に出かける

 

長く住んでいても

まだ知らないことばかりの

町を去ろうとしながら

長く生きていても

まだ知らないことばかりで

命にしがみつきながら

新芽が立派な枝になり支えている

 

からだから あふれた愛が

立派な枝になり支えている

 

きみが きみを 愛するほか

なにが残されているだろうか

 

川沿いで

青を踏む子供らに

負けじと

青さを踏んでいる

脈拍が奏でている

 

人類が残された時間を

指折りかぞえはじめて

宇宙は薄くなりゆくが

そしらぬ顔で 堂々と

つぎの春のために

ほころんだ花を迷いなく落とす

 

 

(初出 2017.3.31 読売新聞)

 

 

2016.12.07 Wednesday

「自罪」

 

雲ひとつないから

責められている気がして

だれも呼びとめられない

鮮やかなブイ

満ちていた星空が

いつしか朝焼けて

上新田港まで歩いた

 

罰はないけれど

罪ばかりだから

朽ちた水色のはしごが

用途もわからないまま

港までの道に置かれて

妙に 納得してしまう

 

十一月、まだ

つめたいものしか売っていない

自動販売機

海猫が鳴く

呼びとめられない

ひどく無垢に咲いて

網が丁寧に待機して

 

ミモザの名前を

すぐに言えなかった日

あなたにばかにされた

当然だとおもう

 

 

 

(2016.12.07)

 

2016.01.18 Monday

こぼれおちたものもの2「からだが記憶する雪」


こぼれおちたものもの
「からだが記憶する雪」

 



 雪はほんとうにしんしんと降る。もちろん、しんしんという音は実際には聞こえないけれど、しんしんという文字がいかにも適している。雪はほんとうにしんしんと降る。しんしんと降る雪はべたっとしていなくて、静かに視界に舞う。雪解けには水となって足元を濡らすものの、しんしんと降る雪にひとびとは傘もささない。
 詩の朗読や講演会で国内をあちこち移動しているわたしの地図に日本ではない国が加わったのは、この四年ほど。詩人の先生に旅をすすめられて随筆の連載のためにハワイに二週間滞在し苦手な英語にも挑戦していたらすっかり楽しくなって、ますます移動することが日常になった。日本語しか喋れないと、おそるおそるガイドブックを手にバスを待っていた臆病者が今やパリにてフランス人の作家さんのお宅に、いわゆる「壊れた英語」で十日間ものうのうと滞在できるようになった。われながら図々しさにあきれる。
 世界地図はただの一枚の紙じゃなくって現実として存在することへの驚きといったら、ない。地球の裏側でひとびとは生活していて、まだ知らない風景は存在する。
 昨年は生まれ育った鹿児島よりも住んでいる埼玉のほうが気温の高いような夏だった。この冬はどうなのだろうか。幼い頃、かすかに雪が降ることがとてもうれしかった。小学校の授業中に雪がぽつぽつ降りはじめ、教室のなかは歓声であふれかえって先生は授業を中断して、クラスの皆で校庭へ飛びだして雪合戦をした記憶がある。いっせいに雪をかきあつめて丸く丸く、お団子のように丸めて、雪というより泥の球のようだったが、それでもかすかに雪が降ることがうれしかった。授業を中断してくれた小学校の先生の粋なはからいもうれしかった。
 おととしの三月末にスロベニアを訪れた。旧ユーゴスラビアである。小さな飛行機が軋みながら雪の舞う夜の空港に着陸した。スロベニアも最近は異常気象で三月末に雪が降り続けることはめずらしいと、ほとんど毎日通ったパン屋のおばちゃんに教えてもらった。わたしは生まれてはじめて、しんしんという音を聞いたような気がした。しんしんと降り続ける雪に閉じ込められて、まるで図書室で読みふけった童話の世界。まいったなあ、という気持ち。大人になっても知らないことはまだまだたくさんある。雪のなかの静けさと美しさ。
 今月末、はじめて北海道を訪れることになった。ワークショップと朗読のための旅だが、はじめての北海道の旅がもっとも寒い時期だなんてどうかしている。温暖な土地で育ち、北の冬は未知なのに、どうかしていると思いながら今から楽しみで、ゆきまつりも見たくて仕事が終わっても個人的に滞在することを決めた。おそらく、わたしは再び、まいったなあと感じるのだろう。知らないことが多すぎて途方に暮れそうになりながら地図をひろげて、できる限り出会いたいと願う。美しさ。
 
「空からの手紙」
頬を赤く染めた
こどもたちが
両手でうけとめる
すぐに消える結晶は
かたちあるものだろうか
かたちないものが宝物と
いつまでも覚えておいて
 
 今年、鹿児島でも雪は降るだろうか。頭ではなくからだが記憶する雪。しんしんではなく、ぽつぽつと降る雪をからだは記憶し続ける。泥の混じった雪合戦に歓声があふれかえる。


(初出:2015年1月1日『ろうけん鹿児島』)


 
2015.12.11 Friday

「羊蹄」


鬱蒼とした
緑色の雨が
まっている
 
つい数日前にはまだ
青々と濡れていたが
今朝には赤く染まる
 
距離を保った
すきなひとは
きれいな顔で
 
紅葉していく
頬を上気させ
もうじき冬だ
 
白樺がひそやかに整列し
はしなく皮がめくれても
声すらあげないのだろう
 
なにごともなく鎮座して
先端が刻をまとっている
ずっとここにいますから。
 
はげしい天気雨に
わたしが雫と成す
しきりに拭われて
 
なにごともなく鎮座して
まとっているものたちが
許しも許されもせず放たれていた



(初出 2015.11.27 読売新聞)

 
2015.08.31 Monday

「泥濘」


熱のかたちをして ひとが
感情を帯びている 日には
寸前ですっかり秋を迎える
 
けだるく、背伸びできない、
等身大のものたちが
そのうち名前だけ記し
蒸発していくんだろう。
 
深くからまった
根のあわい関係
 
うつむいて肩をよせあい
かろうじて留めている日
もう なにもない 砂地
 
とられた踵を責めて
正しい陽光にまきこまれていく。




 
2015.08.31 Monday

Preparation for the Calling/呼ばれる支度


On our stomachs: We are weaving our lives
On our backs: our eyes wide open
 
The roof, is, beautiful
 
Any kind of fabric is ok
To breath in
 
We wrapped up a hurting star
 
As we were warming it
A ripe fruit struck the roof
 
Our ears keen
The calling
 
In that moment, a birth from the eyelid
 
On our backs and our eyes wide open
We weave our lives
 
The beasts stretch their tails
Uncontainable emotions move lambently
 
Any kind of fabric is ok
To breath in
 
May gracious flowers which contains
us hurting flourish
 
People cut the grass
Immature beast gets lost
 
On our backs and our eyes wide open
You, are, beautiful
 
A ripe fruit struck the roof
The calling
 
You will hear it very soon so
Keep quiet.
 
With warm and lambent movement
Please keep quiet.





Translated by Mitsuhiko Kubo

 
2014.07.15 Tuesday

「定点観測」

夏至も過ぎたけれど

真昼に灼けた地面に

空から打ち水が降り

ようやく、夜となる

そうして、朝を待つ

 

はげしく   ゆるやかに

瞬間に立つ   ひとびと

生きることに慣れないまま

かさなる月日が去っていく

束の間に   かがやいて

 

いつか果てるとして

今年も きみと並び

花火を見上げている

きみに うつりこむ

花火を見上げている




(初出 2014.07.14 読売新聞)

 

2014.04.04 Friday

Complicity/加担する

Waiting for the plane
From Amsterdam
Six hours to go
Just when I'm leaving
The weather clears
The moon bear                                 You mustn't kill it
In words that don't reach me
The warning comes
The moon bear                                 You mustn't kill it
 
Ranting that
Time is too short
Suddenly six hours
Is given me
And I fall silent
The moon bear                                 You mustn't kill it
No it's not good to kill
So what would be
All right to kill?
 
In this small airport
People waiting and
People arriving
Maintain the same pace
Clouds too have gathered
But the fading glare
Scares me
And I go on
Pretending to be blind
I
Killed the moon bear
 
2013.12.02 Monday

「春の嵐」


昨日、うまれたばかりの
あなたが、今日
また、うまれている。

白い壁にかこまれて
けわしい顔で
うれしそうに
わたしは関与しないまま
あなたが、毎日
うまれている。
わたしは関与せずに
あなたは、明日
また、うまれている。
わたしは関与しないまま
寒空のつめたい傷の上を
西日をうけながら
歩いた。
お祝いの砂糖菓子を
買いにゆく
とびきり甘いもの

もどったらあなたは
輪になって丸まっている
やわらかな西日に
つつまれたまま
次にうまれるために
まちながら
うれしそうに
けわしい顔で
わたしは関与しないまま





(第5詩集『隣人のいない部屋』より 2013年思潮社)
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